惚れ込んだ、ステーキナイフ

一流は細部にこだわり
絶対に手を抜かない

それを感じたのが
このナイフとの出会いであった

とあるホテルのフレンチレストランで
数年前に出会ったステーキナイフである

その場で恋に落ちた

肉が裂ける、という表現が合うのか
それとも肉が紙のように
破れると言えばいいのか

ナイフを入れた瞬間に
肉がナイフのために
道を開けるような
感覚である

恋に落ちた
いや、一目惚れであった

一緒にいた友人も
ナイフに感動しており

その場で
ナイフについて調べたところ
福井の職人が作っていることが分かり
二人とも
その日中にオーダーしてしまった

後から知ったのだが
それもそのはずである
Bocuse d’Or
日本語ではボギューズドールという
フレンチの料理コンテストに
持ち込まれた
伝説とも言われたステーキナイフであった

やはり
一流は細部にまで手を抜かない

このナイフができたのも
味を損なわない切れ味を
追求したシェフと職人の
苦労の結晶なのだ

その日から
4年あまりが過ぎ

私の手元に
発注したナイフがやってきた

職人の作った
美しいステーキナイフとの
再会である

その後
材料の高騰などを理由に
予約受付もやめたと言うことであったが

4年待っても
手に入れてよかったと思う
一品である

このステーキナイフには
魂が宿っている

La Carrière -Mariko