うま味の分かるアジア人

カタルーニャの田舎にある
有名な料理人が作った
とあるミュージアムに行った際
味覚の体験授業というものに参加した

困ったことに言葉はカタランであった
バルセロナに住んでいた当時は
片言こと話せたが
今となっては
あまり思い出せない言語のひとつである

全ての意味を
完全に理解するのは難しくとも
一方で何を説明しているのかは
デモンストレーションも手伝って
理解できた

目の前に置かれた
砂糖や塩、お菓子のような白い粉には
それぞれ味がついており

言われるがままに
順番に口にしながら
甘さ、塩辛さ、苦味、すっぱさ
刺激、などを味わいながら経験していく

冷たさ、やあたたかさ、も
舌が区別できるものである

そして辛味やパチパチとはじけるような感覚は
痛みの一部として感じられるものだと
説明を受けた

そして最後に
スポイトの中に透明な液体が入っており
これを舌に乗せてみてくださいと
いう指示があった

なかなか液体が落ちてこないうちに
説明が始まった

これは何の味がしますかという質問に
その場にいた人たちは
うーん、という答えを返していた

司会進行を務めるスタッフが
正解はうま味です、と
答えを言うのとほぼ同時に
私はうわぁ、と声を上げた

なぜなら
昆布だしの味がしたからである

自分でも驚きだが
これは本当に濃い昆布の味だと
確信していた

そして、こんなカタルーニャの田舎に
一人、アジア人としてイベントに参加をした私は
一瞬にして注目の的となってしまった

司会進行を務める人から
どんな味がしますかと聞かれ
昆布であることを伝えると
それは、大正解であった

アジア人たちは
昔からこのうま味の存在を知っていて
その食べ物に活用しているのだとの
解説であった

私は自分が
アジア人であることと
日本人であることを
再認識させられたのである

イベント会場から駐車場まで歩いていると
何人ものスペイン人に話しかけられる

昆布の味ってどういう味なの?
香りがするの?
海の味とは違うの?

などと聞いてくるのである

こういうところが
私にとっては
スペイン語圏の人達の
素晴らしいところであると思う

その場を共有した人は皆
仲間であり
すでに友人のようなものなのである

だから話しかけることも
いとわないのだ

文化の体験を通じて
異文化に対する自分の立ち位置を
改めて考えさせられる
とても良い機会であった

味覚も文化の一つなのだということを
体感を持って
学んだのである

La Carrière -Mariko