親愛なるAgatheへ

フランス人の同僚が
天に召されたと

今朝

別のフランス人の同僚から
知らされた

私がパリにいたのは
もう今から9年ほど昔

それでもこうしてつながっている
素晴らしい人間関係に
フランス人たちの
愛の深さを感じる

同時に
その悲しすぎるニュースに
胸が熱く、苦しくなった

彼女は大柄で
明るくとてもユニークな
キャラクターであった

私のことを
愛をこめて
Mariko-coco
とあだ名で呼んだ

仕事上かなりきついことも言ったが
彼女は私から学んだことを
真摯に受け止めていた

ある日の朝
Agatheからの電話があった
Mariko、私、話があるから
今すぐコーヒーマシンの前の会議室に
来て欲しい
というのである

彼女はいつもと違い
本当にどうしようもないという表情で
泣きくずれそうであった

仕事の上で
大きなミスをしたと気が付いたというのである
それはお金の話であった

実は彼女の金銭感覚は
なかなか豪快であったため
私が日ごろ厳重注意をしてきていたのであった
それで予算を注意深く作ったつもりだったのだが
明らかにミスがあったことを見つけてしまったというのである

彼女はどうしよう
本当にごめんなさい、どうしたらいいか分からないと
子どものように
泣きじゃくった

そんな彼女を
最初、そっと抱きしめた

それからこう言った

泣かないで、Agathe
間違いに気が付いてくれるなんて
素晴らしいじゃない

間違えた分は何かの方法で
取り返せばいいのよ
一緒に考えましょう

その言葉を聞いたAgatheが
ますます泣き出してしまい
私はもう、笑うしかなくなってしまった

いつもの通り笑ってよ
大丈夫、なんとかしよう
だから一緒に働いているのだから

その日から
私たちは
さらなる強い絆で結ばれた

私がフランスを後にする日
ルブタンを履いてオフィスへ行ったところ
その靴に最初に気が付いてくれたのも
彼女であった

Agatheともう一度フランスで
笑いながら抱きしめあって
美味しいワインを飲もうと

約束したのに
果たせなかった

でも彼女から学んだ
フランス人の生き方や愛の在り方は
私の中で生き続ける

彼女のことを思いながら
今日はフランスに
いつもよりも
想いを馳せて
ワイングラスを傾けよう

La Carrière -Mariko