人生の師を失うこと

人は老いるものである

歳を重ねることで
成長し、変わっていく

成長の一方で
肉体や精神が
地球上の生き物に定められた
死という世界に向かって
近づいて行くことも
事実である

私たちは
見えない、その瞬間に向かって
生きているのである

信じるものにより
その意味は大きく変わるが

たとえ
天国へ召されるという意味であっても
この世との別れという意味であっても
生まれ変わるための準備であっても

今ここに生きている世界と
別れを告げることに
かわりはない

日本を離れて
半年ほどたったある時

私は自分の人生の師を失った

すでに
あの時から
10年以上も経ったのかと思うと
それだけで
少し
驚きもある

その人は
人生の師匠であり
ある意味命の恩人でもあり
父親でもあった

実の父親の持つ価値観と
私の価値観が
相容れないものであると悟った時から
私を支えてくれたのは
この恩師であった

だから

師を亡くすことのつらさは
私が一番分かっていたつもりである

彼にとって
そこまでの心の支え、ではなくとも

人生を歩むにあたり
重要な決断と影響を与えた人が
天に召されたというニュースを
彼からの連絡で聞かされた

色々悩んだに違いない

悲しみと寂しさ
悔しさと感謝の気持ちと
どうしようもない喪失感

だけど
受け入れなければならない事実を
飲みこむのか
それとも咀嚼できるのか

苦しい時間だったに違いない

私は
日本に帰った方がいいと
ただ、彼の背中を
押した

肉体や身体と面会できるのは
最後のチャンスなのだから
ここで
時間と労力とお金を出し惜しむのは
一生ものの後悔が残ると
私は知っている

そして
まるで推し量ったかのように
彼が彼の師と会えるよう
見えないチカラが
働いていることを
心底感じた

いろんな偶然が起こるものだ

葬儀の日程しかり
仕事の都合しかり
休みの都合に
プライベートの事情も

そのすべての歯車が
見事に噛み合わさっていく

この日本への帰国は
師から彼への贈り物である

師を亡くすことは
言葉にできないほど
苦しく、悲しく
つらく
心が割けることである

でも
師が教え子に、弟子に残したものは
永遠に生き続けることを
決して忘れてはならない

そして私も自分に問おう

貴方の弟子として
私は立派に生きているのかどうか、と


La Carrière -Mariko