ルブタンの人

夜20時過ぎの都心へ
ハイヒールで
歩く私は
どこか
水を得た魚のようだと
感じることがある

なぜか
都心の鍼灸医院へ行く日は
雨が多く
ハイヒールで
現れたことがなかった

ある日
ルブタンを履いて
訪れた時

鍼灸師の方から
感嘆の声が
あがった

ルブタンを
履いて現れた人は
後にも先にも
他にいない、と

素敵だわ

称賛にも似た
その言葉を
ありがたく受け止めて
私は笑顔になった

それ以来
私はルブタンの人となった

ルブタンとは
それほどの
パワーを持つのだと
痛感した

ハイヒールを履いている女性は
たくさんいるが
ルブタンというだけで
覚えて頂けるとは
なんともありがたい限りである

黒のハイヒール
レッドソール
その組み合わせが
唯一無二の
ルブタンを作り上げているのも
事実である

それを身にまとう人と
呼ばれるに
ふさわしい人で
ありたいとも思う

私はハイヒールと
共に生きて行くのだ

そして
ルブタンと共に
生きて行くのだ

大好きなレストランや
カフェやサロンに
ハイヒールで出かける

今の私が
一番飢えているものは
これなのかもしれない

夜22時前の都心を
ハイヒールで歩く自分は
水を得た魚が
再び息を吹き返したかのように
軽やかな足取りであった

ルブタンの人

私はそう呼ばれるに
ふさわしい女性で
ありたいと
強く、思った

La Carrière -Mariko