芸術品としてのハイヒール

家具のない家の
カウンターキッチンの端に
私のルブタンを
飾っていた

ヌードベージュの120ミリ
私とともに
コンサルティングを乗り越えた
相棒でもある

地面に置いておくのではなく
どこか目に付くところに
飾りたかった

キッチンに靴などと
思う人もいるだろう

家具のない我が家で
唯一高さのある
飾れる場所が
カウンターキッチンの
カウンターの部分だったのだ

だからそこが
彼女の彼の
定位置となった

芸術品を自宅に飾る人は
たくさんいる
置物であったり
絵であったりと
様々なバリエーションがあるが

私にとっては
ハイヒールもまた
芸術品の一つである

但しこの芸術品は
眺めるだけでは
その美しさを半分にしてしまう

身に付けて
美しく歩く人がいてこそ
完成品となるのである

このルブタンを身に付け
レッドカーペットを歩く私を
想像する

一流の芸術品に
値するかどうかは
歩く私にかかっている

そもそも芸術品は
大抵の場合
買ってきたり手に入れた時点で
完成しているものが多いが

ハイヒールは別である

身に付けた人が
美しく歩けるかどうかを
問うてくる
芸術品でもあるのだ

よく芸術は考察であるというけれど
確かに考察することと
行動とがともになり
初めて
美しい歩きになることを
私は知っている

そういう意味でも
やはり
芸術品としてのハイヒールは
手ごわい存在である

La Carrière -Mariko