東京駅から新幹線に乗るまで
1時間ちょっとの時間があった
私はお気に入りのパン屋へ
足を運んだ
帰省のお土産に
有名なパンを買おうと思い立ったのだ
そしてパン屋に入ると
なんとあと10分ほどで
焼きあがるという
これはラッキーと思い
店の中で待たせてもらうことになった
よく考えると
私のこの1時間は
ランチを軽く済ませ
お土産を買うという
二つの目的のためであったことを思い出し
私はその場でランチのメニューをお願いし
せっかくなのでと
昼をそこで済ませることにした
ランチを楽しく食べている時
店員が私のところへ近づいて
そっと告げた
お客さま
大変申し訳ありませんが
今回焼きあがったパンは
お出しできるレベルのものではなかったのです
今急いで
再度焼き直しをしているのですが
これには30分ほどかかります
お待ち頂くのは
難しいでしょうか
というのである
確かに待てなくはないが
新幹線までの時間を考えると
正直厳しいというのが本音であった
そのため
残念ですが、大丈夫です
今回は、お店にある他のパンを買いますからと
明るく返答を返したところ
申し訳ないと店員が謝罪しただけではなく
こちらのランチをサービスさせていただきますと
言うのである
確かに待つために
頼んだとはいえ
ランチまでごちそうになってしまっては
お店にお金を落とすどころか
マイナスになってしまう
私が大丈夫ですからと言っても
いえいえ、店長からもそう言われていますので
どうかお願いしますというのである
パンに対する拘り
プロフェッショナルの粋
そういうものが
伝わってくる対応であった
店を出る際に
失敗作ですので、くれぐれも
少し御裾分けということで、と
私一人が味見をするだけの
パンを
お土産に渡された
そのすべての体験が
感動であった
私はお礼にできることをと思い
パンの入っていたバスケットに
敷かれていた白い紙に
お礼の言葉を綴って
店を後にした
私がこの時
気をかけていたのは
お店の人と話す際に
自分の手、指先に
心を籠めることであった
もしかすると
そうした
小さな心遣いが
こんな感動体験を呼ぶのかもしれないと
思ったある日の夕方であった
La Carrière -Mariko