ハイヒールと視界

飛行機に搭乗した瞬間
とても丁寧な口調で
どうぞと席に案内される

たとえ値段の安い席だったとしても
乗りなれた飛行機だったとしても

座席は何番でしょうか、と聞かれ
答えると
その席はこちらです
お荷物は手前に入れられます
お手伝いいたします、と

いつもと同じ飛行機でも
明らかに対応が違うのだ

ハイヒールを身に着けているときと
フラットシューズでいるとき
その差は歴然だった

素敵な靴ですねと
声をかけてきた
男性の客室添乗員が言う

脚元は見られているものだ

この国の人たちは
ハイヒールを見慣れているはずだ
でも
ハイヒールを身に着けているからといって
全ての人の脚元が注目されるわけではない

どのように歩いているのかで
視線の配り方が変わるのだろう

それは見ている方も
見られる方も同じである

ハイヒールで出かけるということは
自分のたち振る舞いに気を配るということでもある

フラットシューズでは気にもかけないような
道の小さな穴やくぼみ
石畳の隙間や形
こうしたものに注意がいくようになる

さらに歩く際に
一歩一歩を運びながら
体重をきちんと移動させる必要がある

どんなに美しく高価なハイヒールを身に着けていても
背中を曲げたり
姿勢を悪く保ちながら歩いていては
ハイヒールが与えてくれる恩恵に
気付くことはない

いつもより視界が広がることで
より多くのものを見ることができるようになり
広範囲にわたって細部を見ることができ
結果
気を配ることができるようになるためである

ハイヒールで歩いているにも関わらず
姿勢が悪くなっていては
そのような物理的な恩恵を感じることも
ほとんどない

物理的な恩恵の結果
私の視界はいつもより広がっており
客室添乗員と目が合う可能性が高くなったとも言えるが
姿勢よく歩くことで
周囲の景色から差別化することができる
私の脚元が客室乗務員の視界に入りやすくなったのも事実である

見ている方も
見られている方も
広い視界と視野を持つことで
時には誰かをさらに思いやることもできるのだ

ハイヒールはそんなことも
教えてくれる


La Carrière -Mariko