パリに住みたいと、言ってみたら

今でも鮮明に覚えていることがある

パリに住んでみたいなぁと
シャンパングラスを持ちながら
昔の上司と
お酒を飲んだ日のことである

パリに辛い思いでばかりを持っていたことは
大嫌いだった、エッフェル塔
の記事にも書いたが

私のバルセロナ在住時代に
パリに住んでいた同僚の結婚式に
彼女がパリ生活を共にした人たちと共に
参加をした

パリのオフィスの責任者でもあった昔の上司は
厳しい人として有名で
共に働いた時間の中に
ほとんど
良い思い出は、ない

ただその人は
仕事を離れると
気さくで話しやすく
お酒を交わす一人の仲間にもなれるような
人であった

もちろんそのことを知ったのは
パリを離れた後の話では、ある

そして結婚式のあと
久しぶりに飲みに行こうと
六本木のワインバーに繰り出したのである

上司は上機嫌で
ワインを飲みながら
パリに家を買いたいと言っていたのを覚えている

そんな彼に
私はパリに住みたいんで
是非その時はよろしくお願いしますと
笑いながら
答えたのだ

その会話の翌日

今度は当時の職場の上司から
突然呼び出され
パリへの転勤を
告げられたのである

言霊というものは
存在するのだ

パリに住みたいと言ってみたら
翌日にそれが
実現する道が
目の前に現れたのだ

当時私は
結婚を前提に付き合った男性と別れた後で
三十二歳という年齢であった
結婚したいという気持ちや
親の年齢を考えると
正直なところ
この転勤を受けるべきと知っていながらも
受け入れられないほど
動揺してしまったことを
覚えている

そのことは
また別の機会に
綴ろうと思う

いずれにしても
言葉の持つ魔法のチカラを
この時ほど思い知ったことは、ない

La Carrière -Mariko