叔母の中の消えゆく私

父方の叔母が
認知障害となり
日々を重ねるごとに
記憶が飛んでいく

私という人は
永遠にどこかの国から
帰ってこない人となり

結婚したかどうかすら
あまり覚えていない

老いとは残酷である

叔母は
クラシック音楽が
好きだったこともあり
ウィーンに住んでいた時に
一度だけ
遊びに来てくれたことがある

その時彼女が
帰り際にこう言った

私は自分の価値観とか
絶対変わらへんような人やけど
今回Marikoにウィーンを案内してもらって
本当にちょっとだけ
爪の先かもやねんけど
世の中の見方がかわったかもしれない

その言葉に
ああ、異文化の持つ力は
本当にすごいのだと
痛感した

絵に描いたような
大阪のおばちゃん、というのが
ピッタリの叔母は
自己主張の塊で
絶対に自分の意思を曲げない
ある意味
恐ろしい存在でもあったが

そんな叔母は
もう、いない

元気に振る舞う姿は
昔と変わらないが
次第に失われていく
記憶というものに
人間の儚さを感じる

La Carrière -Mariko