ガラケーを愛用している母は
当時としては高齢出産で
私を38歳で産んでいる
来年の春には母は80歳となる
母の姿を見て
この人のようなお母さんになりたい
なるべきだと
思ってきたのも事実である
最初にそのことに気が付いたのは
高校生の頃であった
人生において
親になることができるのは
本当に幸せで幸運なことなのだと
この年齢になった私だから、言える
そんな母も
そろそろスマートフォンにしたいらしいと
妹から風の便りがやってきた
為替が落ちていることもあり
メキシコで母親のiPhoneを調達した
設定などもろもろは
夏に実家に戻った際に
行えばいいと思い購入を決めた
母は世の中は感謝でできていると
思っている人である
だから
母の口からは
御礼とありがとうの言葉しか
出て来ない
母の感謝の力が
本物だなと痛感した出来事がある
私がフランスに住んでいる頃
母に乳がんが見つかった
そしてそれを手術することになったのである
手術ののち
苦しい抗がん剤や化学療法などを経て
母は乳がんを克服した
そして数年が経った
乳がんの経過観察のための定期検査の際に
乳がんは再発はないが
もしかすると腸あたりに
がんがある可能性があると
分かったのである
母はすぐに病院へ行き
今度は腸の手術をした
幸いなことに
盲腸の部分にがんがあり
母は大事な機能を失うことなく
見事にこのがんも乗り越えた
母に
よく頑張ったなぁと言葉をかけると
お母さんは
乳がんに感謝してるねん
だって、乳がんにかかってへんかったら
絶対血液検査とかしてへんやん?
だからな
乳がんのおかげで
この腸のがんが分かったねんよ
乳がんには本当に感謝やわ
と言葉を返してきたのである
この時に
私は、まだまだ母を超えられていない自分に
気付かされた
抗がん剤治療は苦しかったはずである
副作用で味覚を奪われ
体重は20キロ近く落ち
髪の毛も全部抜け落ちた
その苦しい日々にすら
母は感謝すると言ってのけるのである
これが
母の言う
世の中は感謝でできていると
言うことなのである
自宅に着いたiPhoneを眺めながら
これから母にますます長生きしてもらおう
そんな気持ちを込めて
この贈り物を渡したい
感謝の気持ちがあふれている
我が母の愛は
私の人生を支える基礎になっている
その事実を
母に改めて
伝えたいと思う
La Carrière -Mariko